ホット・ハニー・ウォーター «2»

 公園にいるのも飽きて帰ると、リビングのテーブルの上に置き手紙があった。

「ハニーへ 学校おつかれさま! 今日のおやつは、特別にプリンがあるのよ。手を洗ってから食べてね ママより」

うっすらマーブルの模様が入ったメモ帳の、空いた部分にはクマのような動物が書かれていた。ママはこうして時々置き手紙を置いていってくれるのだけど、最近ちょっとした絵が添えてあることが多くなった。あたしはママの言いつけ通りに、もこもこと石鹸で手を洗ってから、ママの絵のモチーフを部屋から探し出すのにはまっている。この前の耳の長いクマは、どうやらケーキ屋さんのチラシのうさぎだったようだ。ママは、あんまり絵は上手くないけれど、ちょっとかわいいものが目に入るとついつい描いてしまうのだという。テーブルの隅に積まれた今日の広告や、ママが職場(魔法使い学校か何かだろうか)からもらってきたというお菓子の空き箱を、一通り確かめる。お行儀が悪いから、触れないままに確かめられる範囲で、ゴミ箱ものぞいてみることもある。

 今日はなかなか見つからない。あたしは根負けして、先にプリンを食べようとキッチンに立った。冷蔵庫を開ける。かわいくリボンを結ばれた、ジャムの瓶が並んでいた。隅っこに、ハムとチーズ。そして、いちばん分かりやすく目立つ真ん中に、ぽつんとプリン。透けたカップの中のカスタード色を見て、あたしはお腹がぎゅぅうと鳴った。

 ビニールの蓋を開けようとして、はたと気がつく。ビニールに印刷されたキャラクターは、クマではないけれどクマ以外にも見えない。見つけた。今日のママのクオリティは、どうやら一概にママの責任ではなかったらしい。

 カスタードプリンは、底に生クリームが詰まっていて美味しかった。甘さを舌の上でころころ転がしながら、あたしはにたあっとした表情を浮かべていた。ママがあまーいものを食べたときと、おそろいのかお。砂糖は、魔法だと思う。顔の筋肉を全てほぐして、へんにしてしまう。まだ経験したことはないけど、たぶんもうちょっとオーバーに甘いものを食べたら、あたしはとけちゃうんじゃないかと思っている。