*天橋立大賞2018

 

 昨年から私が勝手に開催している、その年一番のオリジナル作品を自選する「天橋立大賞」の季節がやって来ました。

 今年はどうしても1つに絞れないので、4つに受賞させたいと思います。

 順番は作品の発表時期に沿って。

 

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唇以外で封じたい、唇みたいにして

まるで、嘘みたいだと言うのでどこからが? と尋ねた、すると起源なんてあるの? と尋ね返されたのだ、きみは今が一秒前からの延長線上にあると信じているの、って。何も言えないでいたらさらに言うのだ、仮に地球の生まれた瞬間から今、うん、この喋っている瞬間という今の地点、が同一直線上にあるとして、そのどこかひとつが嘘ならばそれ以降は全て嘘のうえに築かれた世界だとおもわない? 今しあわせという気持ちも先の誰かの復讐により抱かされているものかもしれないし愛して愛されていることだってその命の工場は強姦かもしれないのに吸ってるという酸素だって実はメッキかもしれないしあの星がもう随分前に死んでいるように今届いている声も何億年か前に既に死んだのかもね調和を求められることもほんに地球が丸っぽいからなのかもしれないし見えている人影は残像かもしくは早く歩きすぎたのかも地球が研究当時のとおりに回ってるかも保証はないのに信じられるのは痛みだけだよねえ。って。そう。言うのだ。安直でいちゃ駄目かな軽薄でいちゃ駄目かな熱い粘膜が優しいってそれだけじゃ駄目かな、そんなことは言えないのでぎゅっと手を握って、ここから。と言ってみせる、ここからが起源、ここからはほんと。じっと目が合う、ああ、その眉下がらないように押さえていたい。

 

 

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ロックの巣窟

世界が滅びる5秒前。きみをめちゃくちゃに抱きしめる。骨も折れちゃうかもしれない、ごめん。世界が滅びる4秒前。花屋で一番高い花を一本買う。食べちゃったり空に投げちゃったりする。どうせ死ぬから許して。命に触れてたかった。世界が滅びる3秒前。きみを命ごとめちゃめちゃに濡らす。そんな顔しないで。そそる。世界が滅びる2秒前。窓ガラスとか割っちゃう。バイクは盗まない。腕で割ったら破片とか刺さって血が出そう。イタカッコよさぶって笑っちゃう。狂ってんじゃないかって心配されるくらい笑う。その間も血が流れてるとか、もうヤバイね。世界が滅びる1秒前。疲れて眠る。腹式呼吸で上下するおなか、いとおしいでしょ? 襲ってもいいよ。世界が滅びる0秒前。クソ、死にたくねえな馬鹿野郎誰だよ世界滅ぼしたの。俺じゃん。三年前ホテルで吠えながら祈ったお願いを思い出した。うっわ、超だせえ。はい、それではご臨終です。ま、俺だけじゃないけど。

 

 

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門番はアルタイル

http://madafumi.hatenablog.com/entry/2018/09/02/154502

なおこの作品はお題箱にていただいた「この世界は星の檻でできている」というお題によって誕生した作品です。素晴らしいお題をありがとうございました。

 

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臨終間際の恋文

 昨晩は久しぶりに冷房を切って寝てみたんだ。存外よく眠れました。うれしかったので、きみに教えたかった。星空を歌った音楽ですっきりと朝、目が覚めたよ。そのアーティストはもう何年も前に名前を変えて、今じゃすっかり人気者だよ。
 白をきみは怖いと言ったけど、僕は怖くないよ。宇宙船みたいで落ち着く。だけどきみが悲しむことを責めるわけじゃないよ。ひどい言いようだけど、きみが悲しいから僕は怖がらずに済むのかもしれないね。ありがとうって言ったらきみは怒るかな。怒ってもいいよ。きみに酸素があるなら何したって僕は幸せだ。
 しあわせ、といえばきみに思うことがあった。きみは磁石みたいだと言いたかったんだ。この世に存在するしあわせとか、うつくしさとか、愛とか、そういう清らかで尊いものが、全てきみのもとへ走ってくるね。きみのことが好きでたまらない、きみのそばにいたいとでも言うように。まるで摂理みたいに、正しく。それはきみの才能なんだと思う。きみに唯一詫びなくてはならないのはこのことだ。この世の全ての幸せをかき集めて、一粒一粒積んでできたようなきみのもとへ、僕という唯一の不幸が訪れてしまったこと。これはきみのどうしようもない魅力の引力によるものであるとはいえ、やっぱり、申し訳なく思う。だって、本当ならきみは涙を知らないで生きていくべきだったので。きみの涙は、きみのなかできみを守り続けるものであるべきだったので。
 実は毎日、折り紙を折っています。ロケットを折ってるんだよ。きみが寂しくならないように、そして怒らないように、きちんと毎日色を変えて、華やかになるように。だから、もし明日以降、僕に会いたくなったらこれに乗っておいでね。僕が星になっても、地球にその光が届くには相当の時間がかかるけど、宇宙まで出てしまえばきっとすぐだよ。すぐに、会えるよ。失敗しても大丈夫。そのために、こんなにたくさん折ったんだからね。千はくだらないよ。だけど、このロケットは紙製です。あくまでもそのことを忘れないで。つまりどういうことかというと、あんまりきみがぐしゃぐしゃに泣くとふやけて破けてしまうよ、ということ。
 きみは、天使の歌を知っていますか? 僕が初めて聴いたとき、とても、それはもうとてもきみに似合うと思ったんだ。空を覆う雲が厚くて悲しくなるとき、よかったら聴いてみてください。まるで、誰かに愛され、誰かを愛しているような、最高にハッピーな気持ちになれるから。
 

 さて、そろそろ時間が近づいて参りました。もう一度手紙を頭から読み返してね。何度読んでも文字が消えることはありません。だから遠慮なく何度開いてくれていいし、一緒に寝てくれていいし、いっぱいキスしてくれても構いません。やっぱり、僕はきみに引き寄せられた唯一の不幸だった。それを喜んだら、きみは怒るかな。きみは僕の神さまみたいだった。きみの、その、なんだっけあの、きみのさいのう、愛とかうつくしさとかそういう、ああそうだ、階段の蛍光灯は僕の友人に替えてもらってください。そして、きみの、しあわせになる、しあわせになれる、さいのう、しあわせに、しあわせになれ、愛して、い

 

 

 

(こちらの作品も、お題箱「しあわせになるさいのう」より。素敵なお題をありがとうございました。)

 

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 以上、4作品に天橋立大賞2018を贈呈します。

 上半期に集中していますね。下半期はなかなか奮わない苦しい時期でした。また書けるようになる日まで。

 ご覧くださり、ありがとうございました。来年も精進いたします。

 

2018.12.29. 夜 / まだふみもみず