天気の子をみてきた

 

直後の書き殴りなので中身はない、念のためネタバレ踏みたくない方にはおすすめしません

 

世界が、この世界が、たったひとつの恋だけでできていたらいい。
たったひとつの恋のせいで存在していて、たったひとつの恋で滅びてしまう場所ならいい。
それが、世界の脆さではなくて、恋の強さだったらいい。
世界なんてちっとも脆くないうえで、こんな強大な敵みたいなもののままで、そんなの簡単に打ち砕いてしまうくらい、恋がめちゃくちゃであればいい、めちゃくちゃなまでに、大きければいい。
恋の、物語だこれは、愛なんてものじゃなくて、些細なことが決定的に相手を特別にしてしまう、世界なんて滅びてもいいからあなたといたい、そんな恋だ、そんな恋が、この世の起源だったらいい。
恋の話だ。
誰の邪魔も拒む、誰の制止も訓話も怒鳴りつける、徹底的に孤独な恋の話だ。
どうか。どうか神様、嘘なんて言わないで、物語だなんて神話だなんて言わないで。
どうかこの世界が、恋でできていますように。
自分以外なんて全部めちゃくちゃになっていい、自分のためだけの恋で、この世界ができていますように。
そんな恋が、この世に、存在しますように。

スクランブル交差点を泣きながら渡って、山手線に泣きながら運ばれた。視界の全てがうんざりするほど美しかった、こんな美しさからは弾かれてしまいたいほどだった。駅のホーム、電車から見えるぎとぎとしたネオン、すれ違う人の喋り声、
最寄駅のぱっかり開けた空にさえざえと光る中途半端な形の月。
涙が出た。すみずみまでが何もかも愛しかった。愛しくて愛しくて気が狂ってしまいそうで逃げ出したくなった。
目の捉えるもの全てが、暴力的に心を引っ掻きにくる。何も考えていやしないくせに。
家まで歩いた。人目を忍んで嗚咽を漏らした。世界が、とずっと喉の奥で祈っていた、世界がたったひとつの恋でできていますように。星が見えた。今の街に移り住んでから、初めて見た星空だった。東京でも星は見えるのだと知らなかった。オリオン座。オリオン座、初めて見たときはあんなに大きいと思わなかった。びっくりした。
オリオン座。
泣き叫びたくなった。
ねえ、と思った。
この先、いろんなことを便宜上、説明しなくちゃいけないときがたくさんあるだろう。もっともらしい理由をこじつけて、大人に自分の内側を主張するために。
だめかな。
説明、しなくちゃだめかな。
今までどの作品も、彼の作品はどこが好きなのか明確に言葉にできた、してきた、でも、ねえ、しなきゃだめかな。
わけもわからず泣いてちゃ、だめかな。
オリオン座はとてもきれいだった。東京に来てから見たなかでいちばんきれいだったかもしれなかった。

世界なんて1ミリも、誰のこともひとりも、救わなかった。救われたのは自分だけ。自分のためだけに祈って、自分の欲しいものにがむしゃらに手を伸ばした。そしてたぶん、ついでにちょっとだけもしかしたら、きっと世界を不幸にした。なんて恋だろう。なんて傍迷惑な恋だろう。
なんて恋だろう。
ああでも、それでいいよと祈りたくなる、ずっとずっと嗚咽を噛み殺しながら真っ暗のなかで両手を組んで、ただあなたたちが一緒にいられるようにと、幸せであるようにと、引き裂かれないようにと。だからそれでいいよと、
それで良くあってくれますようにと。
こんなはちゃめちゃな恋が愛される世界であるようにと。
世界なんて滅ぼしたっていい、恋が、恋がこの世に存在するのなら、いくらでも形を変えたらいい。
ずっと、ずっと、ずっと、探している、初めて息をしたときからこんな、こんなめちゃくちゃな恋を、何も顧みずたくさんの人を巻き込んで世界だって形を変えて、それでも進んでいく恋を、その存在を。

恋に恋をしている。
ずっとあなたを、探している。恋を、そのものを。