泣きたくなると、会いたくなる人がいる。



どうしようもなくなったときに、声を聞いて、話を聞いてもらいたくなる人。角膜を水の膜がぶわぁと覆うと、同時に意識に込み上がる人。

涙をぼろぼろ零しているうちに、その割合にどんどんと あいたい の涙が混ざってくる。

おはなししたい。そういう。


早朝でも、真夜中でも、真っ昼間でも。

頭の中で、指はその番号をタップしようとする。頭の中でだけだけど。



恋になれない好きだった。



生まれる前に死んだ恋だった。

こんなむず痒い言葉がぴったりになってしまう思いだった。

恋より先に執着になって、恋になれずに冬になった。春の来ない冬。もう二度と芽吹くことのない銀世界。

嘘でも言えたらいいのにね。


捻じ曲がった思いはこうして涙のときにだけ、外の世界に触れられる。よかったね、新鮮な空気。さ、深呼吸が終わったらまた地中に戻ってね。モグラさんと楽しく遊んでこっちのことなんか忘れちゃいなね。こっちに来たって、なんもないよ。少なくともきみには、なんにも。


張り巡らせた予防線はピアノ線、転んだら痛いよ。

生まれ変わったら恋になれるのかな。来世でだって来来来世でだって、きっとなれないや。


こんなのなかったことになる恋を、ばかみたいに待つ夜。

恋なんかばかみたいに苦しくていい。だからこの死んだ思いは、どれだけ生きたって恋にはならない。でもたぶん、わたしがわたしじゃなければ恋になれた。死ぬ前に恋になることを許された。きっと。


わたしがわたしじゃなかったら。悲鳴みたいな祈りだ。逃避みたいな呼吸だ。そんな世界は、存在しない。前世でも来世でも。いつだってわたしはわたしである以上わたしだもの。



泣きたくなると、会いたくなる人がいる。

声を聞いて、話を聞いてもらいたくなる人が。

泣きながらわたしは、ここは墓場だ、と思う。言葉も感情も死んでゆく場所。新たな墓穴をせっせせっせ掘りながら、見渡す限り、どこも墓場ね。とわたしは思う。

目に見えないために踏み荒らされていくお墓。人だって死ぬ。人だって埋める。

なんど生まれ変わったって、いつの時代に生まれ変わってみせたって、世界は墓場だ。そんな気が、する。


呼吸みたいな祈りに、なき声をねっとり。

おやすみなさい世界。

お寿司を。すしを食べにいこうよ