息を止めてみせて、その瞬間の音をみせて

ダサいTシャツを着てさあ ぼさぼさの頭で なあんにも知らないままで良かったんだよ、爪の先、この数ミリの隙間が気持ち悪くて、削り取っていくからあたしの爪は短い、爪に罪はないのに。どうしたらあたしたち、また会える、安い低脂肪乳じゃホットミルクにしてもばさばさと最悪を伴って染み込むから、泣けてきちゃうの

ねえ知ってる、林檎、酸っぱい。勝手なイメージに押しつけられたあの行き過ぎみたいな赤と、香りに同情していたけどたちまち嫌いになった。あたし誓う。もう二度とスーパーで林檎買わない。

そう思うとその漢字っていうのはなかなか贅沢だよね。強引に許させる魅惑みたいな。アルコール入れとく? 今夜もよく眠れるといいね

 

何年も触れていないギターで雑音を鳴らして、世界を痛めつけるみたいに。人々がみな耳を塞いだら、もうここはふたりだけの世界だね 情熱的な日焼けも 迫り来る青の空も ボートの上のキスも、鼻腔を満たすライムの香りも

てんで似合わない人になっちゃったね ああいうのが似合う似合わないっていうのは、先天性なのかなそれともどこかで、何らかのタイミングで生き違えた?

 

お湯は不味くて飲めない。水が違えば料理の味がまるで違ってくるというけど、じゃあそのせい? 死んだとき、その体の大半を占めていることになる水、きみの遺体の水分を取りだしたらきっと世界一透き通って美味しい水であるんだろうとお祈りしようね。でもちょっと腹が立つからあたしの涙を一粒混ぜるね。そしたらほんの少し濁るね。でもそうすればあたしになるもんね。

 

クリスマスには21時までに布団に入るね。生きてても死んでてもちゃんと届けてよ枕元に、毎年毎年、とっておきのルージュを。あたしがどんどん嘘しか吐けなくなる魔法をかけたルージュを、毎年違う色にしてねどうせそれでも三日で飽きちゃうし。シャンパンで体を洗うのはどうだろう 神様がこぼしたようなラメが全身に張り付かないかな 自然発火しそうなくらいに皮膚が熱をもって、そうしたらもしかしたら空を飛べるかもしれない。痛い痛い痛い痛い痛い、痛くないのが鮮烈に痛い、全てやわらかなままでありたいと思うの、肌も髪も心も、それから内臓も、そうしたら注射針より細い繊細な痛みがこの肌なんかを切るとき痛みが鮮やかに映えるでしょう? ラッコはあたしじゃなかった、あたしはペパーミントじゃなかった、つまりラッコはペパーミントじゃないしペパーミントはラッコじゃない。日の出を待ち望んでいた、あたしは夜に愛されてしまったから。世界の端と端の二手に別れようか、それからせーのでちょっとそこらを蹴り飛ばそう、そうしたら世界がちょっと広がるもう何にも思いのままだねふたりの、そうなったら飽きちゃうかなあ? 絶望から一番遠くへ行こう、そこには悲しみもさみしさも幸せもみちみちと満ち溢れていて、そこで、指先だけ絡めてキスをする。多分、世界はあたしのものじゃなくなっちゃうから。

 

思い出の跡をひとつひとつ数えて懐へしまっていくような、道草はとても退屈で疲れるしいいことがない。指先が蝶蝶のように泳いでみせるけど、てんで面白くない。ラベンダー畑に繋がっている道を、かつては知っていたのだけれどいつだったかどこかで落とした。落とし物に届くのをずっと待っているけれどこれだけ経ってしまったから恐らく手元に戻ってくることはないと確信している。いいじゃないか、クレジットカードを託した蛇革の財布は手元から消えたことがないんだから。もっとも微塵も好みでないからなんならこれこそ紛失物のまま消え去ってもいいんだけど。好きと嫌いと、三つ葉にくっつけて四つ葉だと騙すために葉一枚破り取られたクローバー。編んだら手向けか、命綱になるだろうか 窒息手前の プールの中みたいな あんなにきらきらしてて 泣きたくなる色の場所はきっと

甘ったるい飲み物は苦手だ。張り付く。喉だけじゃなく、口腔をあますことなく。暴発した銃のように殴りかかる舌よりも不快。ほろほろと溶けていくような世界の壊れ方じゃ到底納得できない。吐くことはそんなに楽にならないと知ってから、緑とオレンジと赤をフライパンにぶち込んで山盛り炒めるのだ 塩と胡椒以外はお呼びでない。知らないバラードが鼓膜を優しく撫でたらいい、そうすればそれは、貪るような眠りよりずっとずっと素敵なまどろみを、永遠に提供してくれるから。

 

鼻歌で世界が変わると言い張っていた人のことを思い出してしみじみなんて馬鹿だろうと考えている。無個性な赤の傘が好き。情熱的な赤でもなく消えてしまいそうな赤でもなく強いて言えば何かしらの形容表現の一切を許さない、という赤。傘をさしてタップダンス、歌声を唇をほどいて投げやってみれば雨雲がきっと揺れる、世界を1ミリも変えない程度に。葬儀屋で抱き締めて、それからカエルを探そう。風船みたいだと今のこの気持ちを形容したいけれど、惜しいことに何色の風船であるか、重要なその点が存在してくれなかったので吹き込むはずだった空気のやり場がなくなっちゃったの。蓄音機に触れたい、わからないけど抱きすくめたいの、哀愁に心のやわらかな部分だけ投げ渡したいの、腐っていく誰かの何かをそうして蓄音機のちょっと錆び臭いのを確かめながら見ていたいの、わからない何かに飲み込まれていくのは、コツがいるけれど忘れられないことなのよ、とあの女性が言ってくれた。

 

ペンギンのぬいぐるみを出会わなかったことにしたものたちの象徴と掲げた。しとしとと柔らかな土の上を歩くのは、体内の脈拍や消化器官やそういったものを正常にしていく。人を嘲け笑うような照度で焦がしていく太陽を、あるいはそれを引き留めた夏というものを、あたしはどこに無くしたのか、嗅覚があたしを生かしていて、多分きみを聴覚が生かしている。この世界はどこに行くのだろう。ひまわりの大群が脳裏にきらめいた、それは太陽めいた感覚だった、ストローから流れて来るアイスティーが冷たい。ストローの先で氷がカラカラと音を立てる。軽薄で陰湿なメロディーと、眠気を否定する明度の空気の下を生きろ。

 

お肉でも口いっぱいに頬張ってさ

脳内を壊れるほどカラオケボックスにして、揺らして。

遠くに飛んでったボールを細い目をして見つめて。

さよなら眠り姫、大丈夫きみにお酒はいらないからさ