声になれば言葉になれば世界はちょっと変わる気がしてそういうことを信じていたのは信じていたというより信じないことができなかったと言った方が正しいのかもしれなかった。一般に魔法と呼ばれるものが何にも効かない世界線において。どれなら魔法の呪文になりえますか。どう言えば祈りは届きますか。そもそものところ、宛先を指定することもなく探すことすら足が固められて、ひとまず神さまを自分の中に飼った。多分正解だった。言葉は魔法になりえますか。魔法は祈りになりえますか。世界に酸素を増やしてください。幸せだと嬉しい悲鳴のあげる人のあり、この世界はどういう仕組み、新宿駅顔負けの構造をして。神さま何番ホームにいますか。指が声が魔法を使えるなら、世界にはとっくに魔法使いが溢れている。
 幾度すれ違い、改札、抜けて入ってがしゃがしゃと四角い箱は私を運ぶ。この喉にいつしか住み着いた魔物を、神さま倒してください。魔法使いの修行は、そのまま生の証。これが誰か他人の夢というなら、眠りに沈んでいるその人のために何とか命を繋ぐというのに。がしゃがしゃと、四角い箱が私を運ぶ。行き先へ、多分、本物でない行き先へ。できそこないの魔法は、見つからない神さまは、けれど何よりもわたしの鎧であったし、これからもわたしの鎧であり続けるのだ。

 

(2017.10.19)