凹と凸だけの狂想曲

 

どうして上手く鳴けないんだろうどうして上手く舐められないんだろうあたし、歳だけが取り柄のあたし顔もイケてない痩せようと思えば痩せられるけど本気出してないだけでとはいえ胸もあるわけじゃないしいやサイズ的にはあるけどイメージって先走りすぎてるからほら、挟めってぎゅうぎゅう寄せられても痛いし大抵あたしは最後まで興奮がもったことないんだけどそれはものすごく冷めちゃうからなの女を気持ちよくしてる自分に陶酔してる男に、あーでもさヤれない女に価値なんてないじゃない他に何かあるならまだしもイケてる顔も何かの才能もないわけだし落ち着くとこに落ち着けないままシワができて乳垂れてきちゃったらどうしよう、そんなことを考えていて夜なんか全然眠れない。彼氏が避妊してくれないってあっちゃんがベソかいててサチコが怖いよねピルとかだけでも飲んでたほうがいいかもねでもその許可もらうのも怖いよねえって背中さすってたけどピルなんて勝手に飲めばいいじゃんとあたしは思う。生理痛と、おまけに排卵痛まで酷いあたしはもう3年ほど前からピルを飲んでいておかげで肌もつるつるなんだけど生憎これは加点ポイントじゃなくて標準装備だから。ニキビは減点対象であってないってだけで別に褒められないから。とはいえあたしたちは男を選べないよねえと少し肉付きの良いあっちゃんの背中を見て思うあたしが初めて男の裸を見たのは中学1年生のときで部活帰りにちんたら帰って友達と別れてひとりになったときに見せられたのだった。そのとき騒ぎになっていた変質者だったらしい、そのひとは見せるだけで満足なようだったのであたしは運が良かったんだなあと思ったわけだけどつまり、あたしが悟ったのはそのときだろう、ふむ、女は捕食される側なのか。既にクラスの女の子で誰々ちゃんの発育がいいとか、清純派女優の誰々で昨晩3回も抜いたとかそんな話がとびかっていたからあたしはみっともなく勘違いすることもせずに済んだ。あたしたちのような、うっかりすれば一生女としての機能を使用されることのないまま終わってしまいそうな人間はそこに機械じみた回路しかないのだとしても女と認知をいただけることが天変地異のようなものでむしろ感謝をしなくてはならないのである。

とはいえ。

だからと言って、ヤるのが好きかというとまた別の話で最初のころこそラブホはなんだか楽しくて探検みたいなワクワクがあったけど、そんな処女みたいな反応がウケる歳でもなくなってきたし第一あたしたちに求められてるのはあくまでスムーズさであるもちろんそこに経験豊富をアピールする無駄も必要とされていない。向こうも向こうでこのレベルなら挿れられたらいいくらいのもんでそんなえぐい性技求めてないっしょ? あたしがセックスが嫌いなのはもうひとつ理由があってあたしはとにかく他人の体液が嫌いだ。別に他人のだから嫌いってわけじゃないけど、だって歯磨き中に顎に垂れる唾液とかキモすぎるしそもそも男の精液に関してはシンプルに不味いあたしのを舐めたあとにされるディープキスも最悪な味がするだいたいディープキスを考えた奴は誰なのあれ正しいやり方なのなんか感染しそうだし昂ぶってぐちゃぐちゃに舌を動かすときの男の顔なんか最悪だ。あたしを抱くようなのだから大してもとからそんなではあるけど、あれは愛し合ってる人どうしならオーケーなの? それにしても男を舐めてる間というのはいつ終わるかあたしはそればっかりを考えているあたしじゃ不足だという文句は受け付けないだって誘ってきたのそっちだしそりゃこっちは女として見ていただく側だけども面すげかえても何も変わらないって感傷に浸るそれくらいのあっかんべーは許してくれてもいいよね、それにほら、こんな顔の人間にテクニック期待しないでほしいしこっちは早く終わってほしいだけだしサチコはサチコで早漏の彼氏に悩んでるようだけど超贅沢吐かしてるってかんじ。お礼のつもりなのだろうかティッシュでそこらを拭いたあとに頰にキスされるけどやめてくれなんだその愛に浸るごっこは、せめて唇にしてほしい粘膜対粘膜と粘膜対皮膚なら圧倒的に粘膜の方がマシだってギリ自分の唾液と相殺できるし。ああそれでも、あたしはだいぶ諦めがついたと思う。昔はあっちゃんやサチコと一緒にこそこそとAVを見ながら「こんなん感じないよねえ」とゲラゲラ転げ回ったけど今じゃふたりともすっかり「彼氏に手を焼くカノジョ」ヅラである。ふたりとあたしのどこが違ったか、しかし思うのはあたしの方が圧倒的にエロい声を出せるということだそれが却ってあたしだけが糸の切れた凧状態だなんて。サチコが「しかしあんたは今更誰かに手綱持たれるのも合わないだろうねえ」と言うのであたしは何を当たり前のこと言ってるのかと腹を抱えて笑うブサイク一人に選ばれるより普通レベルの男に何人も選ばれた方がよっぽど箔というものだあたしがどれだけ下手な男に耐えたと思ってるのだ。感じないところをまさぐられて鼻息を荒げる男の股間をあたしは一度も蹴り上げたことがないのだ。マックに寄りたいというふたりと別れてあたしはメールをチェックする。苦い精液を思うだけで同じくらい苦い胃液が喉に上がる。昨日の男はやたら指をかき回すので痛かった。AV業界は乳を揉まれただけでアホみたいに喘ぐシーンをさっさと消去してほしい。上手く、舐められるようになったら、きっともう少し、楽になるはずだ。鳴くのが多少下手でも、許されるはずだ。携帯には、食べていただけることを告げるメールが入っていた。ああ、早く帰ってほどよくエロい下着をすぐに洗濯機に回さなくちゃ。若いうちにこんな穴使い潰してもらわなくちゃ。バカだな。バカだな。バカだな。泣けるほどダサいカレンダーに書き込まれた生理の赤字をちらりと思い浮かべてあたしは帰り道、駅のホームから飛び降りた。